ケーキ職人/大西達也
いちから始めたケーキ修行
幼い頃から甘いものは大好きだったが、まさか自分がケーキ職人になるとは思っていなかったという大西さん。修行をはじめたのは大学卒業後。学生時代、遊びに行った彼女(今の奥様)の実家で食べたケーキの美味しさに感動したことがきっかけだった。
見習いとして修行をはじめたが、それまでケーキを焼いたこともなく、中学卒業直後から始める人もいる職人修行に出遅れたようなコンプレックスもあって「とにかく人の2倍練習する」ことを旨とした。下準備や洗いものといった作業一つ一つに「○分以内で」と目標を定め、例えば『いちごのヘタを取る』という作業なら「どの手でいちごを取り、どうナイフを持ち、仕上がりをどこに置くか」という風に、短時間でより美しく、より多くの仕事ができる方法を模索し、誰よりも上手くできるようになるまで練習を続けたという。
ケーキ作りは「いい仕事」
元町ケーキ名物「ざくろ」は、ざくりと割れたスポンジケーキに特別ブレンドの生クリーム、大きないちごと「これぞケーキ!」と言わんばかりの堂々とした風体。素朴な美味しさが幅広い年齢層に愛され続けている。大西さんは「戦後の創業以来『元町ケーキ』は、神戸の人のお店。三代目として、愛されてきた商品を安定して提供し続けることが自分の役割」と話す。天候、体調や材料などで味が変わらないよう、日々細心の注意を払う。「頑張れるのは、仕事が好きだから。体力的にハードでも、食べる人の喜ぶ顔が見られるから、ケーキ作りはいい仕事です!」と笑う。
もうひとつのチャレンジ「飴細工」
ケーキ職人として店を切り盛りするようになると、新たなチャレンジ精神が湧いてきた。飴細工に出会ったのは29歳のとき。先輩の製作助手を務めたことがきっかけだった。ケーキ作りのときのように師匠がいるわけでもなく、手探りでの修行。デッサンをしたり、計量して飴をとかし、形を作る所からはじめた。何度も挫折しながら様々な大会に挑戦し、35歳のとき『TVチャンピオン飴細工選手権』で準優勝、全国のパティシエが集まるコンクール『内海杯』では日本一になった。
「何回失敗しても『このやり方ではあかんということが新しく分かった』と考える。だから、失敗を無駄だとは思わない」と大西さんは振り返る。
「一生見習い」のケーキづくり
「今も自分で職人だとはよう言わないです。一生見習いやと思っています」と大西さん。自分のことを「すごく不器用で、失敗を沢山するタイプ」と分析する。「だけど、迷いながら行くと拾うものも多い。最初からうまくできる人間ではないからこそ、アドバイスを真剣にきいて学ぶことができるし、真面目に練習して技術を身につけることができるんです 」と謙虚に話す。「これからも腕を磨き続けてお客さんに応えたい」。この精神は、修行をはじめた頃と何も変わらない。
神戸の老舗ケーキ屋「元町ケーキ」のパティシエであり、
三代目代表の大西達也さん。
『内海杯』優勝はじめ、『TVチャンピオン飴細工選手権』準優勝。
フランスの製菓コンクール『クープ・ドゥ・モンド』
日本大会上位入賞他、数々の受賞歴を持つ。
「元町ケーキ」の味を大切に守り続ける傍ら、
関西若手パティシエのための勉強会を開催するなど情熱的に活動している。
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