仕立て職人/足立直樹
サヴィル・ロウ・ストリートで学んで
スーツ発祥の地、英国はロンドンの中心部、メイフェアに、サヴィル・ロウ(Savile Row)という通りがある。有名紳士服の仕立て屋が軒を連ねるショッピングストリート。この「サヴィル・ロウ」は、日本語の「背広(せびろ)」という言葉の語源でもあるそうだ。
足立さんは25歳の頃、このサヴィル・ロウにあるホース&カーチス社で修行、英国の仕立て技術を学んだ。英語はそんなにできなかったが、専門知識を学ぶのに困ることはなかったという。むしろ日本での修行時代に比べ自由時間も多く、楽しく過ごせた、と当時をふりかえる。
15歳で手に職を付けようと家を出た。洋服店に住み込み、6年間、見習いとして修行を積んだ。親方の指導のもと、住み込みでの実地訓練。現代ではほとんど見られなくなった、徒弟制度とでも呼ぶべきシステムである。その後、紳士服店に勤める傍ら、コンテストなどにも精力的に参加し、着実に技術をみがいていった。「生活がかかっていたし、一分一秒でも惜しんで、いい仕事がしたい、という気持ちだった」と足立さんは語る。
「着心地よく、若く魅せる」オーダーメイドの魅力
「オーダーメイド」の特長と言えば、体に合わせた着心地の良さがまず挙げられる。同時に、姿勢やスタイルをよく見せるのも大切なポイントである。「体に合わせる」というのは例えば、前屈みになりがちな人なら背筋が伸びて見えるように、肩が下がっている人ならまっすぐに見えるように、ということを考え、服の形を作りこむ、ということなのだ。
仕立ての世界では『10年仕立てが崩れない服づくり』を目指すのが常。足立さんはそれに加えて『10才若く見える服作り』をも目指している、と話してくれた。美しい仕立てのシャツを着て作業をする足立さんご自身も、とても若々しい。
神戸マイスター、若者の育成をとおして
現在足立さんは、工房でオーダーメイドスーツを製作する傍ら、神戸の誇るものづくりの技術を伝える学校「神戸ものづくり職人大学」で講師も務めている。生徒は20~30代が中心。直接継承することでしか伝えられない貴重な技術を、次の世代へ託す作業。
「若い人を育てるのは楽しい。原点に戻れる。」爽やかに、足立さんは微笑んだ。