Top > Aechive > vol.1 > 篆刻職人/寺本珠寧

篆刻職人/寺本珠寧

世界にひとつだけの印

 篆刻(てんこく)って、聞いたことがありますか。主に篆書(てんしょ:世界最古の漢字)を石に彫ることで、個性的で芸術的な印として使えます。例えば親しい友人へ宛てた手紙に添えたり、絵や書画に落款(らっかん:できあがり!の印)を入れたり。この印を彫ること自体が、身近なアートとして親しまれています。最近では、モチーフは文字に限らず、花や動物などの図柄やアルファベットなども織り交ぜ、イメージをふくらませ、自由にデザインしていく過程も魅力のひとつになっています。

石ならではの面白さって?

 幼少期から書道を習い、文字に親しみを憶えていた、という寺本さん。8年前に始めた篆刻がおもしろくなり、友だちに伝えたことが、今のお教室のはじまりだそうです。その後、書道・篆刻教室を本格的にスタート、現在に至ります。にこやかな笑顔に、きらりと光る瞳。かわいらしさの奥に、芯の通ったものを感じさせる寺本さんに、篆刻の魅力を語っていただきました。
 「石という素材は、天然の物なので修正しづらいです。自分がしたいことを形にするというより、出会ったその石に合わせ、その癖を、どう自分のものにしていくか、ということが制作時の最大のテーマになります。欠けてしまったところを利用して、素材ならではの『風化』を楽しんでいくうち、想像もしなかった作品に仕上がっていくところが面白いんです。」

みつめる時間、発見とあたらしい出会い

 最初は「できるかな?」「私、不器用やし・・・」と言っていた生徒さんも、「いい作品が出来た!」と喜んで帰られます。「生徒さんが喜んで下さることが、私にとっての喜びでもあるんです。」と笑う寺本さん。多くの人と出会い、作り上げてきた作品数は、500個以上にも及びます。世界にひとつしかない印たちは、どれも美しく誇らしげで、見ごたえがありました。
篆刻は、まず文字を選ぶことから始まります。名前でもいいし、夢や生き方などを表した文字でもいい。字を決めたら、その意味、字形のバリエーションを調べ、生徒さんと話し合いながら、デザインをします。その後、できたイメージを石へ写し、印刀で刻む作業に入ります。
 「話し合うことからはじまり、一つ一つの行程の中で、生徒さんの人となりを発見していくような感覚があります。それを通じて、私自身をも再発見することができるんです。」寺本さんが話すと、篆刻レッスンの話が、まるでジャズセッションのような響きを持つから不思議です。けれど、筆者も寺本さんの篆刻レッスンを受けたことがあるのですが、本当に、一連の行程が自分自身の発見であったし、導き手としての寺本さんとのやりとりから成り立つ、一度きりの魔法のような時間なのでした。

 フランスでも篆刻のワークショップを開催したという寺本さん。出会いは言葉の壁を越え、多くのフランス人が篆刻を楽しみました。今後も神戸とフランスを拠点に活動を続け、いつか、生徒さんのかけがえのない印を集めた作品集を出版することが夢だそうです。

篆刻職人/寺本珠寧さん
篆刻教室を神戸のカフェや本屋さんにて企画・運営しています。
遊処 「 庵(ihorii)」
HP: http://www.ciao2ioh.com/
【出張教室】
・cafe 茶家(苦楽園)
・日本茶cafe 一日(岡本)
・cafe de 仏蘭西(灘)
・ハニカムブックス(元町)
・トンカ書店(元町)
・ルミーフラワー(和田岬)、他